聴覚彼女

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静かなる決意声明 - 大橋歩夕『FAITH』

 

大橋歩夕 / L.L.F._Audio Snippet

FAITH(Global Edition)

FAITH(Global Edition)

 

 大橋歩夕さんの約4年ぶりとなるアルバム『FAITH』がレーベル直販サイト通販限定でリリースされました。

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 アルバム先行シングル『L.L.F』、及び2014年のミニアルバム『未来トラベラー』で、挑戦的なディープファンクを披露した彼女。今作もSPOOKY ELECTRICプロデュースによる大胆なファンキーさは健在でありながら、そこからさらに発展した様々な音楽性を詰め込んだ素晴らしい作品が届きました。

 

 アルバム冒頭を飾るタイトル曲のtr.1「FAITH」はデジタルビートでありながらも生々しい躍動感と大きな開放感、推進力を持ったナンバー。タイトル通り彼女の "FAITH=決意" を歌詞に込めて高らかに爽やかに歌い上げていて、WeezerFountains of Wayneなどにも繋がるUSパワーポップな乾いたサウンドを響かせます。

 続くtr.2「So Ra Do Mi So」では、アコースティックなボサノヴァのビートにあたたかなホーンと包み込むようなやわらかな歌声が重なって、彼女の声の持つ可憐でありながらも懐の広い包容力のある面をクローズアップして伝えます。

 tr.3「NEW FUNK」はバウンスするリズムの上を軽やかにキュートな歌声が舞い踊る、Pharrell Williams~Bruno Marsを連想するような、ポップなソウルファンクチューン。少年のような朗らかさと少女のような愛らしさの間をいくような彼女の絶妙な歌声が、繰り返されるフレーズの中で細かく韻を踏みながらグルーヴを生み出していきます。

 さらに、熱い咆哮のように暴れまわるギターとサックスの中を、"Love like FUNK"と静かに呟きが繰り返されるtr.4「L.L.F.」は、Sly & the Family Stoneの『暴動』のように深く暗い沼へ引きずり込むサイケデリックなディープファンク曲。SPOOKY ELECTRICプロデュースの本領が発揮された、ポップさをある種度外視し、徹底して音楽性を追求した曲とも言える濃厚な仕上がりとなっています。

 そんな濃いナンバーから一転してtr.5「COLOR」のハウシーなビートとヴィヴィットな音色のシンセが展開される牧歌的な曲を挟み、tr.6「THE SHOW MUST GO ON」は、冒頭曲のパワーポップ的なディストーションギターをゆったりとタメの効いたバックビートに乗せて、どこまでも遠くへと飛んで行くような雄大な歌声で歌い上げます。サステインの効いたギターが暴れ回る中を、淡々とした彼女の歌は対比のように響き、ここでも再び登場する"FAITH"のフレーズとともに、決意とその孤独を暗示していることを感じさせます。

 ラストのtr.7「WITH U」は優しく語りかけるようなポエトリーリーディングを挿入しながら、アウトロに彼女自身が奏でるサックスの音色がふいに顔を出し、優しい風景を導き出すフォーキーな楽曲。乾いたタメのあるビートはこの曲でも保たれていて、グルーヴへの意識は全編を通して貫かれます。

 

 このアルバムはドラマーのクレジットがなく、大半の曲がプログラミングによってリズム部分が構成されていてます。簡素であるが故に制作者の意図するグルーヴも直接的にそれぞれの楽曲に反映されています。「シンプルである=単純・安易」という安直な構図を否定する、音の隙間に強い意思や決意を滲ませる楽曲は、上記のPharell WilliamsやSly Stoneはもちろん、先日亡くなったPrinceの名盤『Parade』にも通ずるような衝動に突き動かされる音楽の喜びと、そんなブラックミュージックへの憧憬が詰まった作品となりました。

 

(DJ声優パラダイス