聴覚彼女

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三森すずこ『Fantastic Fanfair』

 


三森すずこ「Wonderland Love」MV short ver.(2ndアルバム ...

 三森すずこさん2枚目のアルバムとなる1年ぶりのアルバム『Fantastic Fanfair』。 

 1stアルバム『好きっ』は三森さんのイメージをそのまま詰め込んだ自己紹介のようなアルバムでしたが、この2ndアルバムについて各メディアのインタビューで語られるのは「移動式遊園地」をテーマにしたコンセプトアルバムであるということ。11曲に11通りの作詞作曲編曲家を用意した、まさに遊園地のようなゴージャスかつカラフルな彩り、華やかなテイストの楽曲に富んでいながら、一本のラインの上でまとめられたアルバムとなっています。

 前半はかなりハードな仕上がりになっていて、幕開けのタイトル曲「Fantastic Fanfair」からBPM190で突っ走るフルパワーのパンキッシュチューンで異様なまでの彼女の意気込みを伝えます。個人的にアルバム中最も好きなtr.3「純情 Da DanDan」は、ホーンでグルーヴするホーンファンクパンク。彼女のイメージする踊る楽しさを体現したような一曲です。tr.2「ときめいてDream」tr.4「ROLLER COASTER」tr.5「Traveling Kit」と前半はビートの強い曲が続き、遊園地を満喫する楽しさがアップテンポなビートに込められています。

 アルバムの折り返し地点のtr.6に今作の発端となった、Bメロが三拍子、2番Aメロがバックビートに変化するトリッキーなアレンジのシングル「せいいっぱい、つたえたい!」が据えられているのも、彼女のアルバムに対する意識が全体に行き届いている証拠のように感じられます。

 tr.7「Heart Collection」tr.8「Spinning Stars」と前半と打って変わったダークメルヘンような世界観を見せつけた後に、tr.9「ハーモニア」で美しい恋の成就へと辿り着いたと思わせて、さらに次のtr.10「小さな手と観覧車」でさらに展開を深める遊園地の世界に困惑すら覚えてしまいます。

 そしてラストを飾るのは「High And Loud」以来のタッグであるkz(livetune)によるWonderland Love。遊園地という夢のラストを飾るパレードのような華やかな一曲。でありながらどこか大団円を否定するような不穏な曲展開で、一筋縄で終わらせず再び遊園地の世界へ誘おうとする気配すら感じられます。

 

 今作は「移動式遊園地」というテーマですが、遊園地から連想されるような幻想的でファンタジック一色の仕上がりとはならずに、11曲中8曲がエネルギッシュなバンドサウンドという身体性を意識した作品になったのは、三森すずこさんの地に足の着いた思想や、彼女の人間らしい温かみのある声が持つ求心力の結果ではないかと思いました。そしてアルバム後半のEDM調にも挑戦するなど、甘さや楽しさだけに終わらずほろ苦さも取り入れた作品になったのは、移動式遊園地には楽しさと背中合わせのいつか去っていってしまう終わりある切なさや儚さも含まれている、というメッセージのように感じました。

 

(DJ声優パラダイス