聴覚彼女

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夢に向かって走り続けるトップランナー - 入野自由『DARE TO DREAM』


入野自由 『DARE TO DREAM 』 TVスポット

 

DARE TO DREAM(通常盤)

DARE TO DREAM(通常盤)

 

 
 入野自由さんのフルアルバムとしては5年ぶりとなる2nd『DARE TO DREAM』がリリースされました。2016年の入野さんはTVアニメ作品では「おそ松さん」、劇場作品では「聲の形」、舞台では「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」と、彼の芸能活動の中でも代表作となるような活動が続きました。そんな年にリリースされたこのアルバムは、楽曲提供にGalileo Galileiカラスは真っ白Mummy-DRhymester)、SCOOBIE DOTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなどの強力な面々を迎え、2017年の一時芸能活動休業を発表した彼にとって音楽活動の集大成となる充実した作品となりました。

 

 

 アルバムは入野さん自身がラストライブに足を運んだほどの大ファンであるバンド、Galileo Galileiの手によるtr.1「フレンズ」から静かに幕を開けます。USインディー的なキレのあるクリーントーンのギターが淡々と鳴り響く空間をゆっくり漂うように、優しく爽やかに歌い上げますが、そこには尾崎雄貴さんらしい青臭さとほろ苦さが添えられていて、このアルバム全体が楽しさや優しさだけではない複雑な感情を含んだ作品であることを静かに告げています。Galileo Galileiらしい周囲の風景まるごと変化させるような凛とした音像はここでも健在で、しかし入野さんの声と溶け合って包み込むような温かさも帯びています。

 tr.2「HIGH FIVE」はカラスは真っ白のシミズコウヘイさんによるアッパーなハイスピードファンクロック。カラスは真っ白のメンバー3人に加えてサポートのピアノ/キーボードの工藤さんも加わり、彼らが得意とするドライブするグルーヴが全面に渡って展開されていて、入野さんが持つ軽妙洒脱な遊び心と懐の広さが顕になっています。

 勢いそのままにベーシストとして入野さんのライブサポートも担当している黒須克彦さんによるtr.3「MONSTER」、2012年のミニアルバム『cocoro』から関係の続く前口渉さん編曲のtr.4「流星のキミへ」と、従来から関係の深い両者によるライブを意識した疾走感ある曲で走り抜けます。オールラウンドアレンジャー大久保薫さんによる煌めくシンセが降り注ぐ冬ソングtr.5「Joyful」を経て、スタティックな滑り出しからムーディーなアルトサックスがむせび泣くtr.6「涙の水面」、ブルージーな香りを漂わせるパーカッシブなフォークソングtr.7「melody」から徐々にテンポを落とし核心に迫っていきます。

 tr.8「トップランナー」は初めて他人へ歌詞を提供するというRhymesterMummy-Dさんと佐伯youthKさんの共作曲(編曲はMr.Drunk名義)。2014年のKREVAさんが音楽監督を務める舞台「KREVAの新しい音楽劇 最高はひとつじゃない2014」で共演したことがきっかけで友好関係が始まった二人。制作前に入野さんがMummy-Dさんへ投げかけた芸能活動における苦悩が歌詞に反映されていて、声優界・演劇界の先頭を走り続ける入野さんの苦しみ・達成感などの感情がMummy-Dさんのフィルターを通して綴られています。入野さんのフロウもMummy-Dさん直系のフェイクやアクセントですが、彼らしい端正で伸びやかな発声の魅力もしっかり織り込まれ、ストイックなトラックの上でダイナミックに立ち振る舞っています。アルバム冒頭の「フレンズ」と並んでアルバムを象徴している充実した曲となっています。

 先行リリースされたシングル曲tr.9「嘘と未来と」の優しくシアトリカルなバラードで呼吸を整えて、爽やかなシティポップなtr.10は「Crazy Love」はSCOOBIE DOのマツキタイジロウさんの手による一曲。ベースサポートにもナガイケジョーさんが入り、さらにマツキさんによるヴォーカルディレクションによって、細かな機微まで気が配られた切れ味ある歌唱が展開され、彼の持つ明るく健康的なセクシーさが浮き彫りにされています。

 tr.11「FrameとEdgeと、その向こう側」は繰り返されるシンガロングコーラスがポジティブなパワーを放ち圧倒する、Arcade Fireの「Wake up」を彷彿とさせる壮大な曲です。美しいフィナーレを飾るようなドラマチックなムードを突き破りエピローグ的に現れるラストトラックはTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDによるtr.13「ENTER THE NEW WORLD!」。遊び心が詰まったパーカッシブな80’sエレクトロファンクはChromeoや近年のDaft Punkの影響も感じさせます。彼の羽目を外すような茶目っ気のあるフェイクが各所で飛び出すヴォーカルは、彼の破天荒さな一面も表現されていて、最後に最もアグレッシブな曲を用意することで新たなスタートも予感させながら、今作は幕は閉じていきます。

 

 

 全体としてはコンセプトアルバムというよりは、曲ごとの個々の作家の色の強さを活かした作品集の色合いが強いアルバムですが、共通したモチーフとして掲げられているのは「夢に向かって進む姿」です。今作のタイトルである"DARE TO DREAM"とは「大きな夢を見る、大志を抱く」というような意味があり、アルバムのジャケットにも「I'm DTD」という形で表記されキャッチフレーズ的に扱われています。幼い頃から俳優・声優として活躍を続け、舞台・アニメ・映画・音楽それぞれ高いレベルで実績を残してきた入野自由さんですが、その成功は常人には無謀とも思える大きな野望を各分野で夢見て挑戦し続けてきたからこそでもあります。常に目標に向かって走り続ける彼の生き方こそが「大きな夢を見て、夢に向かって走り続ける」人生であるという自負が「I'm "DARE TO DREAM"」というフレーズに込められているように思えます。

 

 アルバムの音楽性としては、後半のネオシティポップに接近したような力の抜けたソウルファンクなフィーリングや、ラップへの挑戦がインパクトあるトピックとして目立ちます。しかしこれらは今作に始まった唐突な試みではなく、2015年のミニアルバム『僕の見つけたもの』での「見果てぬ世界、繋がる想い」や「不埒なセッション」、今年のシングル『嘘と未来と』収録の「I am I」などの曲で、佐伯youthKさんらと共に続けられてきた試みが今作にも引き継がれ結実したものです。彼が夢見続け挑戦してきた音楽が今作で表現され、まさに代表作となるアルバムとなって届けられました。

 tr.8「トップランナー」のラストは、ブレイクビーツの隙間から聞こえる走る息切れがフェイドアウトしていき、ランナーは静寂の向こう側へ走り去っていきます。この到達点もまた次の夢への通過点であり、今も彼は夢に向かって走り続けていることが示唆されています。

 

(DJ声優パラダイス

女子三年会わざれば刮目して見よ - petit milady『CALENDAR GIRL』

 


petit milady(プチミレディ) - 3rd Album『CALENDAR GIRL』全曲試聴動画 #プチミレ ##プチミレディ良い曲だな

CALENDAR GIRL(通常盤)

CALENDAR GIRL(通常盤)

 

 

 悠木碧さんと竹達彩奈さんのユニット、petit miladyの活動3年目の3rdアルバム『CALENDER GIRL』がリリースされました。二人の強い個性をぶつけあった濃厚な作品だった過去2作からさらに飛躍し、それぞれの個性の調和が深まり、その個性の総和に留まらないpetit miladyとしての魅力をさらに増した作品が生まれました。

 本作はシングル2曲の実際のタイアップに加えて、他の収録曲にも全て"仮想のタイアップ"がつけられています。全ての曲をシングル級のメイン曲として扱おうとする姿勢が見て取れとれるとともに、全12曲をカレンダーに見立ててアルバムを構成することによって、ベストアルバム的なインパクトとコンセプトアルバム的な統一性を両立させようという試みがなされています。

 

 今作の魅力は、大きくレベルアップした二人の歌唱力、お互いの声の魅力を引き出そうとコントロールされるようになったバランス感覚、そしてぐっと洗練され焦点の定まった楽曲たちです。

 アルバム前半部は、従来のプチミレのパワフルでコミカルな路線を踏襲しながら、以前の過剰なまでの濃厚さと喧しさは抑えられています。歌唱力の進化が肌で感じられるのがtr.2「大好き、ありがとう」。特に竹達さんの声の柔らかな包容力が引き出されていて、二人の息の合ったヴォーカルによって静かな波をゆっくりと広げていきます。tr.3「rainy! rainy! rainy!」では、サビのピチカートの音色に呼吸を合わせるように、パワフルさは保ったまま二人の声のバランスをとるようにナチュラルに歌っていて、全力で互いの声をぶつけていた1stと比べると確実な変化が感じられます。

 アルバム後半部は、petit miladyの新たなチャレンジと言えるミッドテンポの打ち込み曲が新たな二人の魅力を次々に導き出していきます。tr.7「はろうぃんあるばいたー」はSUPA LOVE所属の中村瑛彦さんによる華やかでバウンシーな4x4ハウス。tr.8「SNOW // SLASH」は同じくSUPA LOVEのhisakuniさんによるtrap的なハイハットやスネアの連打に加えてダブステップ的な重厚なハーフステップパートが挿入される、シリアスでスタイリッシュな一曲です。tr.9「聖シルヴェストルのテーブル」はファルセットヴォーカルで煌びやかな世界観を描き出すフィルターハウス的な曲。そしてこの流れにとどめを刺すのがtr.11「チョコレイト・ブギウギ」。tr.8と同じくhisakuniさんによる曲で、オリエンタルなハープの音色とともに、乾いたドラムが力強く跳ね回り、フレンチポップス meets ポストロックとも言うような、従来からの楽しく力強いプチミレと、新機軸のキュートで華麗なプチミレが高いレベルで昇華融合されています。

 

 それぞれソロ活動でも、悠木碧さんは『イシュメル』、竹達彩奈さんは『Colore Serenata』という声優アーティスト史上に残るような素晴らしい作品をリリースしていますが、petit miladyにおいてもソロでは表現できないポップでキャッチーかつエレガントな表現を3年目の3rdアルバムでしっかりと確立させました。

 楽曲レベルで大きな変化が伝わる曲をピックアップしましたが、実はtr.1「青春は食べ物です」tr.10「クジラの背中」tr.12「桜のドアを」のようなユニゾンで歌うロック曲こそが、お互いの理解の深まりと二人のヴォーカルの表現力の成長を確実に伝えていて、その部分もこのアルバムの良さであるように思います。

 

(DJ声優パラダイス

静かなる決意声明 - 大橋歩夕『FAITH』

 

大橋歩夕 / L.L.F._Audio Snippet

FAITH(Global Edition)

FAITH(Global Edition)

 

 大橋歩夕さんの約4年ぶりとなるアルバム『FAITH』がレーベル直販サイト通販限定でリリースされました。

eighth wonder market

 アルバム先行シングル『L.L.F』、及び2014年のミニアルバム『未来トラベラー』で、挑戦的なディープファンクを披露した彼女。今作もSPOOKY ELECTRICプロデュースによる大胆なファンキーさは健在でありながら、そこからさらに発展した様々な音楽性を詰め込んだ素晴らしい作品が届きました。

 

 アルバム冒頭を飾るタイトル曲のtr.1「FAITH」はデジタルビートでありながらも生々しい躍動感と大きな開放感、推進力を持ったナンバー。タイトル通り彼女の "FAITH=決意" を歌詞に込めて高らかに爽やかに歌い上げていて、WeezerFountains of Wayneなどにも繋がるUSパワーポップな乾いたサウンドを響かせます。

 続くtr.2「So Ra Do Mi So」では、アコースティックなボサノヴァのビートにあたたかなホーンと包み込むようなやわらかな歌声が重なって、彼女の声の持つ可憐でありながらも懐の広い包容力のある面をクローズアップして伝えます。

 tr.3「NEW FUNK」はバウンスするリズムの上を軽やかにキュートな歌声が舞い踊る、Pharrell Williams~Bruno Marsを連想するような、ポップなソウルファンクチューン。少年のような朗らかさと少女のような愛らしさの間をいくような彼女の絶妙な歌声が、繰り返されるフレーズの中で細かく韻を踏みながらグルーヴを生み出していきます。

 さらに、熱い咆哮のように暴れまわるギターとサックスの中を、"Love like FUNK"と静かに呟きが繰り返されるtr.4「L.L.F.」は、Sly & the Family Stoneの『暴動』のように深く暗い沼へ引きずり込むサイケデリックなディープファンク曲。SPOOKY ELECTRICプロデュースの本領が発揮された、ポップさをある種度外視し、徹底して音楽性を追求した曲とも言える濃厚な仕上がりとなっています。

 そんな濃いナンバーから一転してtr.5「COLOR」のハウシーなビートとヴィヴィットな音色のシンセが展開される牧歌的な曲を挟み、tr.6「THE SHOW MUST GO ON」は、冒頭曲のパワーポップ的なディストーションギターをゆったりとタメの効いたバックビートに乗せて、どこまでも遠くへと飛んで行くような雄大な歌声で歌い上げます。サステインの効いたギターが暴れ回る中を、淡々とした彼女の歌は対比のように響き、ここでも再び登場する"FAITH"のフレーズとともに、決意とその孤独を暗示していることを感じさせます。

 ラストのtr.7「WITH U」は優しく語りかけるようなポエトリーリーディングを挿入しながら、アウトロに彼女自身が奏でるサックスの音色がふいに顔を出し、優しい風景を導き出すフォーキーな楽曲。乾いたタメのあるビートはこの曲でも保たれていて、グルーヴへの意識は全編を通して貫かれます。

 

 このアルバムはドラマーのクレジットがなく、大半の曲がプログラミングによってリズム部分が構成されていてます。簡素であるが故に制作者の意図するグルーヴも直接的にそれぞれの楽曲に反映されています。「シンプルである=単純・安易」という安直な構図を否定する、音の隙間に強い意思や決意を滲ませる楽曲は、上記のPharell WilliamsやSly Stoneはもちろん、先日亡くなったPrinceの名盤『Parade』にも通ずるような衝動に突き動かされる音楽の喜びと、そんなブラックミュージックへの憧憬が詰まった作品となりました。

 

(DJ声優パラダイス

これからも続いていく私の旅 - 牧野由依『Tabi*note』


牧野由依 / ワールドツアー - YouTube

タビノオト

タビノオト

 

 

 牧野由依さんの4年ぶりとなる待望の4thアルバム『Tabi*note(タビノオト)』。彼女のアーティスト活動10周年記念作品であるとともに、インペリアルレコードに移籍後初のアルバムとなります。元Cymbals矢野博康さんをサウンドプロデューサーに迎え、今までの「癒し」や「儚さ」のような言葉で表わされるストイックでアンビエントな作風から一歩進み、「楽しさ」や「暖かさ」に満ちた彼女自身の朗らかな人柄に寄り添ったような素晴らしい作品になりました。

 

 tr.1は祝祭感のある「ワールドツアー」。明るいホーンの音色が華やかに幕開けを告げるソウルチューンです。"止めないで Dancin'"、"ぐっとGroovin'"など、リズムに身を任せて踊ろうと誘いかける、これまでの音楽性から考えるとアグレッシヴなフレーズも飛び出し、このアルバムそのものが彼女の新たな音楽の旅であることが示唆されます。

 tr.2「星に願いを」は宮川弾さんによる一曲ですが、その矢野さんがドラムを務めています。前曲からの軽やかなグルーヴを受け継ぎ保ったまま、tr.3「囁きは"Crescendo"」へ。最近の活躍著しい川田瑠夏さんのアレンジによる力強いリズムと美しいストリングスが染みこむように響きます。アルバムの中でも従来の牧野由依さんの繊細なイメージと今作のグルーヴィな作風の橋渡しのような存在となっていて、近年の彼女のキャリアにおいて重要な一曲になっていることが分かります。tr.4「Pastel Town」は、ネオシティポップの旗手としても注目されるユニットSugar's Campaignのメンバーとしても活動する新進気鋭のトラックメイカー、Avec Avecによる一曲。シンセを大胆に取り入れたニューウェービーなAOR的ナンバーでアルバムにカラフルな彩りを添えています。

 tr.5「88秒フライト」は配信限定リリースされていたロック的なナンバー。tr.6「たったひとつ」とともにやや高音を抑えたアルバムミックスに変わっていて、色の違う既発曲であっても統一性を持たせて作品を推進させていこうとする意図を感じます。tr.7「アルメリア」はハープ&ギターのユニットtico moonと矢野さんの共作の、彼女の持つ高貴な魅力が反映された、アルバム中最もロマンティックな一曲です。

 折り返し地点のtr.8に収録された「グッバイ・マイ・フレンド」。不安や戸惑いは隠されずとも、明るく前を向いて歩く、現在の彼女の状況とも重なる旅立ちをテーマにした歌詞が胸に突き刺さります。この曲を境にディープな音楽的な挑戦を深めていく曲が続き、トリッキーなリズムプログラミングのtr.9「ハチガツノソラ」~ベースが絶妙にルートを外して不安定感を忍ばせるミニマルなフレーズが繰り返すtr.10「secret melody」~コトリンゴさんらしい前衛的なジャズを幻想的なムードでまとめ上げたtr.11「太陽を巡って」と、音楽の旅の最深部へと潜りこむまさに彼女にしかできない表現が続きます。

 そしてアルバム先行シングルのドラマチックなtr.12「きみの選ぶみち」から、再び旅をテーマにした異国情緒溢れる、World Standardなどを彷彿とさせるワルツなtr.13「まわる まわる」に辿り着き、アルバムは幕を閉じます。

 

 この作品は10周年記念アルバムでありながら過去を振り返るのではなく、アルバムのテーマでもある「旅」という名の、この先の音楽活動を意識した作品にもなっています。女優兼アーティスト・牧野由依という存在を音楽を通して演じあげていた今までのキャリアから歩みを進め、ひとりの人間・牧野由依が持つ肌の暖かさを伝える作品を作り上げました。

 旅は新しい出会いとともに別れを伴い、新しい挑戦に満ちたこの作品は結果的に従来のファンとの別れになるかもしれない覚悟を持ちながら、それでもこの先もアーティスト活動を続けていく決意をこの作品から感じました。

 tr.8「グッバイ・マイ・フレンド」で歌われている、"Goodbye my dear friend. Hello my dear friend." というフレーズに込められた思い。従来のファンはもちろん新しいファンにもこの作品の魅力が届くことを信じています。

 

(DJ声優パラダイス

それではみなさんご一緒に♪ - ゆいかおり『Bright Canary』


ゆいかおり3rdアルバム「Bright Canary」全曲試聴動画 - YouTube

Bright Canary

Bright Canary

 

  小倉唯さん・石原夏織さんによるユニット、ゆいかおりの1年半ぶりの3rdアルバム『Bright Canary』がリリースされました。今作は前作2nd『Bunny』から小倉唯さんの1stソロアルバムを挟んでのリリースとなり、彼女のソロとの違いを明確にしゆいかおりとして目指すモードを提示した作品となりました。

 

 tr.1「倍速∞ラブストレート」は高速BPMでの裏打ちオープンハイハットとキックによる転がるようなグルーヴの四つ打ちダンスロック的ナンバー。KANA-BOONやKEYTALKなどとも共振するような同時代的なダンスロックを取り入れ、彼女たちの世代のフレッシュなグルーヴ感とパッションを詰め込んだ曲です。一気に膨れ上がった熱量を保ったままシングル曲のtr.2「Ring Ring Rainbow!!」~表題曲的位置づけのtr.3「カナリア」へとつながっていきます。

 この冒頭三曲を聴いて感じられるのは、"二人が踊りやすい曲"よりも"リスナーが踊りたくなる曲"という方向への志向の変化でした。これまで二人が歌い踊るだけで完結していたゆいかおりの世界に、第三者を巻き込んでいこうする意識が表れているように思います。アルバムに先駆けてリリースされたシングルtr.2もアルバムの流れではダンスロック的文脈で捉えられる曲で、その意識を象徴した楽曲としてアルバム冒頭に配置されているように感じられます。

 石原夏織さんソロ曲tr.4「Telephone call」は、エレクトロハウスとHi-NRGを混ぜあわせたようなスタッカートの効いたシンセと悩ましげなヴォーカルが印象的なナンバー。小倉唯さんソロのtr.5「ライアーシープ」は、ディストーションギターのリフとイーブンキックの絡み合い、ヴォーカルにも大胆にディレイ・リバーブがかかるサイケデリックな一曲。どちらも少し泥臭さを残した曲で、エレクトロクラッシュの香りを感じさせます。

 tr.6「New World」からはそれまでの四つ打ち中心から流れを変えてのエモロック。アルバム中最もハードな仕上がりで力強いサウンドを叩きつけて、そのままアップリフティングなtr.7「LUCKY DUCKY」へ。tr.8「オリオンからのメッセージ」~tr.9「Intro Situation」~tr.10「Rainy Day」の流れは、軽やかに飄々とダンスや歌をこなす能力の高さを見せつけていて「苦悩」や「懸命さ」を感じさせない、ゆいかおり流のエンターテイメントの一つの形を表現していると思いました。特に、ストリングスとともに二人のユニゾンが美しく重なりあうドラマチックな4x4~2stepソングのtr.10は上手くまとまっていて、この曲で締めていいのでは?と思うほどでした。

 ラスト2曲tr.11「NEO SIGNALIFE」tr.12「Billion-Carat」はそれまでとは逆に、"ここまでできるんですよ"という二人のダンスの能力を示すために収録されたような楽曲。ある意味2015年版にアップデートされた「VIVIVID PARTY!」かもしれません。TSUGEさんによるリキッドファンクなtr.12はスペーシーなシンセが高揚感を煽る一曲で、曲が終わった後、宇宙に取り残されるような不思議な聴後感を残します。

 

 (実際の裏側は別として)大きな才能を持ちながらもその全てを限界まで発揮することはせず、"与えられた課題を軽くこなしながら、明るさや楽しさの中にその能力の高さを密かにのぞかせる"というイメージのゆいかおりでしたが、さらに今作はそんな肩の力の抜けた軽さでもってリスナーを二人のダンスの輪の中へ引っ張り込もうとする意欲を感じる作品でした。"自然体の姿勢"は従来からのゆいかおりの特徴でしたが、"リスナーを巻き込んでいく"というのが今後の方向性になるのかなと感じた作品でした。

 

(DJ声優パラダイス

開花という名の経験と才能の発露 - 内田彩『Blooming!』

 


内田彩『Blooming!』ダイジェスト試聴 - YouTube

Blooming! 初回限定盤A(CD+Blu-ray)

Blooming! 初回限定盤A(CD+Blu-ray)

 

   内田彩さんの2ndアルバムは、1stからわずか8ヶ月という短いスパンでのリリースとなりました。前作『アップルミント』と大まかな制作陣は変わっておらず、その点では前作の延長線上にある作品なのですが、彼女の「やりたかったこと」がより具体化された表現の深度を増したアルバムになりました。

 アルバム前半は、畳みかけるようにハードなエモロックチューンを繰り出し、息つく暇を与えません。tr.1「Blooming!」からtr.5「Go my Cruising!」までノンストップの全力疾走で駆け抜けていきます。特に彼女自身がコンペで選んだうちの一曲、tr.3「Like a Bird」は、今までのキャラクターソングでもあまり聴かせることなかった、声の響きを低く抑えてアタック感を意識した、彼女の考えるロックヴォーカルスタイルを叩きつける攻撃的な楽曲で、自らの新たな一面を強くアピールしています。

 後半への橋渡しとなるtr.6「Let it shine」とtr.7「ハルカカナタ」は、前者は華やかなホーンロック、後者はミッドテンポのフォークチューンですが、前半の曲とは打って変わって静かに語りかけるようなヴォーカルで、歌唱法からも楽曲の持つ感情を表現したいという彼女の意欲が分かります。

 tr.8「いざゆけ!ペガサス号」 tr.9「妄想ストーリーテラー」は彼女とも旧知の仲である佐々倉有吾さんによる曲。彼らしい様々な楽器を駆使するトイポップ/アヴァンポップ味が盛り込まれています。特に後者は一曲の中で拍子も切り替わり、トイトロニカやケルトなどが代わる代わる顔を出していて、まさに内田彩さんの奔放なイメージが過不足なく表現された楽曲です。

 tr.10「Daydream」は、前作で「ピンクマゼンダ」を手がけた坂部剛さんによる楽曲。彼はゼロ年代に強い影響力を持っていたポストロック~エレクトロニカの薫陶を受けていた世代(82年生まれ)。この曲もWorld's end Girlfriendやツジコノリコなどの影響下にある、グリッチノイズを含んだアンビエントな幕開けから、ストリングスを交えてブレイクコア化していくドラマチックな一曲。彼女の持つメルヘンチックな声の響きを十二分に活かした、音の世界の中にすべてを包んで溶かしこんでいくような素晴らしい曲です。

 ラストを飾るtr.11「With you」は、もう一つの彼女がコンペで選んだというアッパーでダンサブルな一曲。歪んだベースと強いキックはEDM的でありますが、イントロのフィルター使い、ファンシーなシンセの音色、ブリッジでのリズム構成、アウトロでのヴォーカルサンプリング&チョップなど、Wave racerやCashmere Catなどのフューチャーベースを強く意識したような部分が端々で見受けられます。軽やかでハッピーにアルバムを締めくくる爽快感ある曲であると同時に、彼女の音楽キャリアを代表する曲にもなるであろう一曲です。

 従来から演技でも歌でも様々な事ができる器用さと柔軟性を持っていた方だと思うのですが、今までのキャリアで積み上げてきた経験とその才能がこのアルバムでは充分に活かされていて、タイトルのとおり言うならば、彼女のアーティスト性が見事に「開花」したアルバムとなりました。内田彩さんが好きな人はもちろん、内田彩さんにそれほど興味がない人にもおすすめできる音楽的にも充実した内容であり、貪欲で挑戦的な姿勢は2015年の声優アーティストらしさを象徴する一枚になりました。

 そして、メイキング映像では一部「With you」の仮歌版が聴けるのですが、それを聴くと彼女がかなり仮歌に忠実に歌っていることが分かります。この点からも当然ながら彼女の判断だけでなく、チームで楽曲、アルバムの完成形を意識しながら楽曲制作を進めていることも分かりました。いいアルバムを作ろうと目指しそれを達成した、制作チームの力にも気付かされた部分でした。

 

(DJ声優パラダイス

小野友樹『パーティーマン』

パーティーマン(DVD付)

パーティーマン(DVD付)

 

 

 『黒子のバスケ』火神大我役や、『ダイヤのA』伊佐敷純役で知られる小野友樹さんのアーティストデビューとなる6曲入りの1stアルバム『パーティーマン』が彼の誕生日である6月22日にリリースとなりました。

 江口拓也さんとのユニット「ゆーたく」でも歌唱力の高さを遺憾なく発揮している彼ですが、この作品ではその歌唱力だけでなく、彼の持つサービス精神やホスピタリティが音楽表現として昇華された作品となっています。

 そんな彼のサービス精神を象徴するのがtr.1の「Party Night」。冒頭から極太なベース&キックの上を切れ味溢れる力強いラップで捲し立てていき、ヒートアップしたバンドのグルーヴをまとめ上げながらパワフルに歌い上げる姿は、JB'sを率いるJames Brownのような圧倒的エネルギーに満ちています。曲調がめまぐるしく移り変わっていく中で、キャラクターを演じ分けていくような声優ならではのヴォーカルによって、リスナーを置き去りにすることなくムードを盛り上げます。この1曲目から既に「全力のおもてなしで楽しませる!」という彼の心意気が濃縮されています。

 抜群のヴォーカリゼーションを見せつけるのがtr.6「カーテンコールのその後で」。60'sソウル歌謡曲を混ぜ込んだバックビートの上で自由自在に転げまわる熱いヴォーカルを聴かせてくれます。口上が入る部分もあり、加山雄三堀内孝雄を意識しているのが読み取れますが(これはtr.4「もぎたてISLAND」も)、さらにはMarvin GayeAl Greenのようなシンガーまで視界に入れるような堂に入った貫禄のある歌いぶりが素晴らしいです。

 デビュー作であることもあり、ロカビリーやゼロ年代エモなど様々な曲調に挑戦していて、"こんなことも出来る"というショーケース的な面のある作品でありながらも、様子見のレベルを大きく越えて、"エンターテイナー小野友樹"としての今後の可能性を見せつける1stアルバムとなりました。

 

(DJ声優パラダイス