聴覚彼女

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それではみなさんご一緒に♪ - ゆいかおり『Bright Canary』


ゆいかおり3rdアルバム「Bright Canary」全曲試聴動画 - YouTube

Bright Canary

Bright Canary

 

  小倉唯さん・石原夏織さんによるユニット、ゆいかおりの1年半ぶりの3rdアルバム『Bright Canary』がリリースされました。今作は前作2nd『Bunny』から小倉唯さんの1stソロアルバムを挟んでのリリースとなり、彼女のソロとの違いを明確にしゆいかおりとして目指すモードを提示した作品となりました。

 

 tr.1「倍速∞ラブストレート」は高速BPMでの裏打ちオープンハイハットとキックによる転がるようなグルーヴの四つ打ちダンスロック的ナンバー。KANA-BOONやKEYTALKなどとも共振するような同時代的なダンスロックを取り入れ、彼女たちの世代のフレッシュなグルーヴ感とパッションを詰め込んだ曲です。一気に膨れ上がった熱量を保ったままシングル曲のtr.2「Ring Ring Rainbow!!」~表題曲的位置づけのtr.3「カナリア」へとつながっていきます。

 この冒頭三曲を聴いて感じられるのは、"二人が踊りやすい曲"よりも"リスナーが踊りたくなる曲"という方向への志向の変化でした。これまで二人が歌い踊るだけで完結していたゆいかおりの世界に、第三者を巻き込んでいこうする意識が表れているように思います。アルバムに先駆けてリリースされたシングルtr.2もアルバムの流れではダンスロック的文脈で捉えられる曲で、その意識を象徴した楽曲としてアルバム冒頭に配置されているように感じられます。

 石原夏織さんソロ曲tr.4「Telephone call」は、エレクトロハウスとHi-NRGを混ぜあわせたようなスタッカートの効いたシンセと悩ましげなヴォーカルが印象的なナンバー。小倉唯さんソロのtr.5「ライアーシープ」は、ディストーションギターのリフとイーブンキックの絡み合い、ヴォーカルにも大胆にディレイ・リバーブがかかるサイケデリックな一曲。どちらも少し泥臭さを残した曲で、エレクトロクラッシュの香りを感じさせます。

 tr.6「New World」からはそれまでの四つ打ち中心から流れを変えてのエモロック。アルバム中最もハードな仕上がりで力強いサウンドを叩きつけて、そのままアップリフティングなtr.7「LUCKY DUCKY」へ。tr.8「オリオンからのメッセージ」~tr.9「Intro Situation」~tr.10「Rainy Day」の流れは、軽やかに飄々とダンスや歌をこなす能力の高さを見せつけていて「苦悩」や「懸命さ」を感じさせない、ゆいかおり流のエンターテイメントの一つの形を表現していると思いました。特に、ストリングスとともに二人のユニゾンが美しく重なりあうドラマチックな4x4~2stepソングのtr.10は上手くまとまっていて、この曲で締めていいのでは?と思うほどでした。

 ラスト2曲tr.11「NEO SIGNALIFE」tr.12「Billion-Carat」はそれまでとは逆に、"ここまでできるんですよ"という二人のダンスの能力を示すために収録されたような楽曲。ある意味2015年版にアップデートされた「VIVIVID PARTY!」かもしれません。TSUGEさんによるリキッドファンクなtr.12はスペーシーなシンセが高揚感を煽る一曲で、曲が終わった後、宇宙に取り残されるような不思議な聴後感を残します。

 

 (実際の裏側は別として)大きな才能を持ちながらもその全てを限界まで発揮することはせず、"与えられた課題を軽くこなしながら、明るさや楽しさの中にその能力の高さを密かにのぞかせる"というイメージのゆいかおりでしたが、さらに今作はそんな肩の力の抜けた軽さでもってリスナーを二人のダンスの輪の中へ引っ張り込もうとする意欲を感じる作品でした。"自然体の姿勢"は従来からのゆいかおりの特徴でしたが、"リスナーを巻き込んでいく"というのが今後の方向性になるのかなと感じた作品でした。

 

(DJ声優パラダイス