聴覚彼女

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開花という名の経験と才能の発露 - 内田彩『Blooming!』

 


内田彩『Blooming!』ダイジェスト試聴 - YouTube

Blooming! 初回限定盤A(CD+Blu-ray)

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   内田彩さんの2ndアルバムは、1stからわずか8ヶ月という短いスパンでのリリースとなりました。前作『アップルミント』と大まかな制作陣は変わっておらず、その点では前作の延長線上にある作品なのですが、彼女の「やりたかったこと」がより具体化された表現の深度を増したアルバムになりました。

 アルバム前半は、畳みかけるようにハードなエモロックチューンを繰り出し、息つく暇を与えません。tr.1「Blooming!」からtr.5「Go my Cruising!」までノンストップの全力疾走で駆け抜けていきます。特に彼女自身がコンペで選んだうちの一曲、tr.3「Like a Bird」は、今までのキャラクターソングでもあまり聴かせることなかった、声の響きを低く抑えてアタック感を意識した、彼女の考えるロックヴォーカルスタイルを叩きつける攻撃的な楽曲で、自らの新たな一面を強くアピールしています。

 後半への橋渡しとなるtr.6「Let it shine」とtr.7「ハルカカナタ」は、前者は華やかなホーンロック、後者はミッドテンポのフォークチューンですが、前半の曲とは打って変わって静かに語りかけるようなヴォーカルで、歌唱法からも楽曲の持つ感情を表現したいという彼女の意欲が分かります。

 tr.8「いざゆけ!ペガサス号」 tr.9「妄想ストーリーテラー」は彼女とも旧知の仲である佐々倉有吾さんによる曲。彼らしい様々な楽器を駆使するトイポップ/アヴァンポップ味が盛り込まれています。特に後者は一曲の中で拍子も切り替わり、トイトロニカやケルトなどが代わる代わる顔を出していて、まさに内田彩さんの奔放なイメージが過不足なく表現された楽曲です。

 tr.10「Daydream」は、前作で「ピンクマゼンダ」を手がけた坂部剛さんによる楽曲。彼はゼロ年代に強い影響力を持っていたポストロック~エレクトロニカの薫陶を受けていた世代(82年生まれ)。この曲もWorld's end Girlfriendやツジコノリコなどの影響下にある、グリッチノイズを含んだアンビエントな幕開けから、ストリングスを交えてブレイクコア化していくドラマチックな一曲。彼女の持つメルヘンチックな声の響きを十二分に活かした、音の世界の中にすべてを包んで溶かしこんでいくような素晴らしい曲です。

 ラストを飾るtr.11「With you」は、もう一つの彼女がコンペで選んだというアッパーでダンサブルな一曲。歪んだベースと強いキックはEDM的でありますが、イントロのフィルター使い、ファンシーなシンセの音色、ブリッジでのリズム構成、アウトロでのヴォーカルサンプリング&チョップなど、Wave racerやCashmere Catなどのフューチャーベースを強く意識したような部分が端々で見受けられます。軽やかでハッピーにアルバムを締めくくる爽快感ある曲であると同時に、彼女の音楽キャリアを代表する曲にもなるであろう一曲です。

 従来から演技でも歌でも様々な事ができる器用さと柔軟性を持っていた方だと思うのですが、今までのキャリアで積み上げてきた経験とその才能がこのアルバムでは充分に活かされていて、タイトルのとおり言うならば、彼女のアーティスト性が見事に「開花」したアルバムとなりました。内田彩さんが好きな人はもちろん、内田彩さんにそれほど興味がない人にもおすすめできる音楽的にも充実した内容であり、貪欲で挑戦的な姿勢は2015年の声優アーティストらしさを象徴する一枚になりました。

 そして、メイキング映像では一部「With you」の仮歌版が聴けるのですが、それを聴くと彼女がかなり仮歌に忠実に歌っていることが分かります。この点からも当然ながら彼女の判断だけでなく、チームで楽曲、アルバムの完成形を意識しながら楽曲制作を進めていることも分かりました。いいアルバムを作ろうと目指しそれを達成した、制作チームの力にも気付かされた部分でした。

 

(DJ声優パラダイス